来 歴


苦い風景

私がみんなに向かつて空がこわれたという
みんなは両手を高くあげて空を支えようとするが
もはやその頭の上に昨日までの空はない

みんなは慌てて自分の所在を確かめようとする
けれどもまわりには風景がからまわりしているだけで
誰の手にもその謎をとく鍵がない

私の声が警笛のようにみんなの耳をつきさすといい
だがかすれた呟き油のきれた歯車
一つ場所を足踏みしているだけで先に進むことができない

みんなの足は世界をまたげない
私には他人であるみんながみんなのパンをたべる
みんなは千年同じ土地に住みそこに私のたべる麦は生えない

私いう
私はどうやら裏側にいるらしい
ここからはあんなに高い世界中の空
そして私いう
私はくさる猫背やがて羊歯になつてのびてくるかび
ぶざまにねじまげた顔の影になつて
自分が見えないみんなとその同じ空の下で生きねばならないと私いう


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